アクチュアリー試験の勉強法(一次試験)
本記事ではアクチュアリー試験(一次試験)の勉強法をまとめます。初受験の方、勉強科目を迷っている方向けに、受験科目の選び方、勉強の進め方や参考書の情報などをまとめます。個人の主観が含まれますのでお含みおきください。
1.受験する科目の選び方、順番
一次試験の科目数は5科目あり、どの順番で受験するが非常に重要になります。
初受験者の方はまず、数学の合格を目指すべきです。手のつけやすさを考えると会計・経済・投資理論(KKT)が最も勉強しやすい科目ですが、数学を突破できないと生保数理、年金数理、損保数理に手をつけられなくなります。数学が専攻でない方、文系の方は特に、数学の攻略を最優先事項とすべきです。
数学に合格した後は生保数理または損保数理に手を付けるべきです。年金数理は難易度が高く、生保数理の知識も問われやすいため、生保数理を学習してから取り組むべき科目です。
損保数理では一部、生保数理に関連した知識を使う問題(積立保険の年金現価の計算など)がありますが、必ずしも事前に生保数理を完璧にしておく必要はありません。
(生保数理・年金数理)と(数学・損保数理)の組み合わせについては、内容の親和性が非常に高いので、同時に受験するあるいは期間を空けずに受験する戦略が適切です。会計・経済・投資理論(KKT)は他の科目との関連性が低いため、どのタイミングで受験してもかまいません。
2.各科目の勉強方法
(1)数学
数学の勉強法としては、「弱点克服大学生の確率・統計」とモデリングの教科書(日本アクチュアリー会から販売されている水色の本)を一通り勉強した後、過去問演習にあたるのがおすすめです。
「弱点克服大学生の確率・統計」は例題と解説が充実しているため、独学でも勉強を進めやすい参考書です。学部教養レベルの数学の知識があれば全く問題なく読めますが、文系数学までの方にも読みやすい内容になっています。
- 作者:藤田 岳彦
- 発売日: 2010/04/09
- メディア: 単行本
数学の試験は確率論、統計論、モデリングの3分野から構成されます。勉強の順番は、確率論→統計論→モデリングの順で進めていくことが無難です。
確率論については、代表的な確率分布の確率密度関数、分布関数、期待値、分散、積率母関数を自力で算出できることが必須となります。おのずと手が動くまで練習することをお勧めします。
統計論については、基本的な統計的検定や区間推定、検出力などの問題を押さえれば合格点の水準に達することが可能です。検定で用いる統計量は直前の暗記も重要となるので、自分なりに整理しておくことが肝要です。
モデリングについては出題量は少ないものの点差が付きやすい部分であるため、アクチュアリー会の水色の教科書や過去問を一周しておくことが必要です。
(2)生保数理
生保数理は指定教科書と過去問を中心に勉強しました。生保数理の記号にいち早く慣れることが勉強の鍵となります。
教科書は上巻と下巻がありますが、上巻の第1章、2章、4章、5章を集中的に勉強し、純保険料と責任準備金の算出を理解することが重要です。第3章は下巻の第13章の就業不能の問題と関連性が高いので、後回しにしてもかまいません。
上巻の基本的な公式を理解した後は、下巻の連合生命や多重脱退、チルメル式責準等の問題に手を付けていきやすくなります。下巻は点差の付きやすいポイントが多くあるので過去問と合わせてムラなく対策しておくことが重要です。
受験直前期には下記のサイトの予想問題も参考にしました。実践的で役に立つ問題が取り上げられているため、非常に参考になります。
ハピスマ大学 - お金の基本・運用・活用を学ぼう | アクサダイレクト生命保険
(3)年金数理
年金数理の勉強方法は生保数理に近いものになります。指定教科書と過去問を中心に勉強を進めました。
まずはトロ―ブリッジモデルの各種財政方式を理解することが重要です。財政方式の算式を暗記する際は、各記号の意味を図示しながら理解することをお勧めします。教科書の数式と図を何も見ない状態から書き出せるようにしておくと、試験本番でも迷いなく手を動かすことができます。
公式の理解が十分になってからは、過去問演習を通じて典型的な問題や応用的な問題に取り組みました。網羅的な問題演習を行うのにアクチュアリー受験研究会で提供されているワークブックの「例題で学ぶ年金数理」は非常に役立ちました。
また、受験直前には年金数理人試験の問題も参考にしました。解答には解説がついていませんが、演習パターンを増やしたい方にはおすすめです。
過去の出題例|能力判定試験について|年金数理人を目指す方へ|JSCPA
(4)損保数理
損保数理は範囲が広く、数理的にも難易度が高いため受験時には苦労しました。「例題で学ぶ損害保険数理」で問題の解き方を把握しつつ、内容が理解できていない部分については教科書に戻って数式を追い直すようにしました。
まずは、教科書第2章「クレームの分析」における集合的リスクモデルを理解することが重要です。こちらの記事もご参考ください。
第3章「経験料率」で利用するベイズ統計や第10章「リスク評価の数理」で利用するコピュラ、極値理論など、応用的な数理統計の知識が必要な領域については、自分でまとめノートを作成して理解を確認するようにしました。
一方で、第4章「クラス料率」や第5章「支払備金」、第6章「積立保険」、第7章「保険料算出原理」などは知識がないと解けない問題もあることから、過去問等から暗記すべきポイントを網羅的に洗い出して、直前に見直すようにしました。
受験中は下記の参考書を使用しました。
- 作者:岩沢 宏和
- メディア: 単行本
(5)会計・経済・投資理論(KKT)
他の科目と比較すると勉強には手を付けやすいものの、試験範囲が非常に広いため油断できない科目です。配点としては投資理論が50点、会計、経済が25点ずつとなっており、投資理論の比重が大きくなっています。
また、合格には6割以上得点するだけでなく、3つの分野でそれぞれで設定されている足切り点(※)を超える必要があります。(※各分野の配点に対して4割の得点が必要です。投資理論は20点、会計、経済はそれぞれ10点ずつ。)足切りを確実に回避するためには、配点が少ない会計、経済も含めてムラなく勉強する必要があります。
教科書、過去問を一周するだけでは試験範囲を網羅的にマスターすることは難しいです。早めに過去問に手を付けて、繰り返し練習することをおすすめします。時間に余裕のあるうちに典型的な計算問題を練習し、試験直前は正誤問題等、暗記が重要な問題を対策できるとベターです。
参考書としては、アクチュアリー受験研究会で配布されているワークブックを主に使いました。解き方が分からない問題、知識が足りていない箇所については、指定教科書「財務会計講義」「新・証券投資論」を参照して理解を深めるようにしました。
- 作者:桜井久勝
- 発売日: 2018/03/21
- メディア: 単行本
3.勉強時間
一次試験を突破するのに必要な勉強時間は一科目あたり200時間とも言われています。1日1時間程度コンスタントに勉強するとしても、一科目あたり半年くらいの時間がかかる計算です。
いつから勉強を開始するかに正解はありませんが、業務や学業の繁忙度も考慮しつつ、勉強時間を確保しなければなりません。
無理のないスケジュールを組み立て、出来るだけ前倒しで勉強することが合格の鍵になります。
4.終わりに
一次試験は限られた時間の中で大量の問題を解くことが求められます。試験当日に迷いなく問題が解けるように、早い段階から出題パターンになれておくことが肝要です。
教科書を読んで理解する勉強も大事ですが、手を動かして問題を解けるようになることも高得点を得るには不可欠です。試験を突破するためには6割の得点が必要なので、基本的な問題を計算ミスなく確実に解けるようにすることが求められます。
前記事でも書きましたが、アクチュアリー試験合格には平均8年程度かかるとも言われています。毎年複数の科目を集中的に勉強することが一次試験を早く突破するコツになります。
本記事が読者の方の受験科目の選択や勉強方法の模索の一助になれば幸いです。